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▼あっ、それで石田屋が昨年渡仏した時にフランス語の通訳をされたんですね。

 そういうこともありましたね。一年間私はフランスの田舎でフランス語を勉強して、やっとカノーバスに入れるという時に、オーナーが代わって縮小してしまい、泣く泣く帰国しました。何もかも打ち捨てて渡仏したので、帰国しても何も手元にはありませんでした。

 
▼たいへんな経験でしたね。

 むしろ、いい経験でした。山を乗り越えるという体験であり、乗り越えたという自信がいまの私のベースになっていると思います。
その後の大森企画に採用され、ホームインテリア部門をまかされました。
ゼロから作っていったのですが、ご存知のように急速な拡大がたたって、破綻。
またもや私は一人になってしまったのです。

 
▼苦難が続きますね。それで、今度は独立しようと考えたんですね。

 自分が招いた結果であれば納得もできるのですが、他人の都合にふりまわされすぎましたね。
一人立ちしようと思ったのです。だから、準備にかなり時間と労力をかけました。
二〇〇〇年に計画をたてました。どういう商品を作ってどうするのかをじっくりと考えました。

 
▼それが現在のブランド「ポルト・ボナー」のコレクションなんですね。

 「ポルト・ボナー」はフランスに滞在していた時から、自分のものをつくるんだったら、この名前にしようと思ってた言葉です。「幸せを呼ぶもの」という意味です。
例えば、いつも身に付けている石がありますね。それはそもそもどういうわけで、身に付けたらよいと信じられ、どういう風に人々の心の中に受け入れられているのか、そんなことを調べたんです。

 
▼そもそも、とか、もともとって、大事だと石田屋もいつも言ってますね。

 紀元前に栄えた国々や地域の歴史、中国やインドやチベット、タイの古くからの暮らし、チリなど中南米の古い姿、そういうことに関心を持ち、調べ、昔の人々の素朴な習慣や祈りの姿を辿っていったのです。どのような品物に祈りを託したのか、何に心の支えを見出していたのか、そんなことを丹念に調べ、知っていく中で、昔からのたくさんの石や貝、布や雑貨など木や植物の加工品に出会いました。
  例えば、チベットの天珠という石があります。お釈迦様の額に埋め込まれいる、あれです。
最初、石だけ見て、きれいだなと感じましたが、「人間の第三の眼」という意味を知って、よけいに美しく感じました。石にはすべて意味があり、それを身につけることで、人々は心の安寧や高揚を託しているんですね。

 

▼石田屋との出会いは?

 以前、大森企画という会社のホームインテリア部門を担当していましてね。
ジャパンテックスという大きなインテリア関連の展示会で初めて出会いました。
大森企画はテンセルという素材のジーンズで伸びた会社ですが、そのテンセルでタオルやシーツ、カーテンなどを作る部門をまかされていたんです。そこで寝装品のアイテム制作で石田屋さんに相談したのがきっかけです。

▼もともとはデザイナーでいらっしゃるんですね。

 はい。内野タオルという業界大手でチーフデザイナーをしていました。
その内野の提案先にフランスのマニュエル・カノーバスがあって、ライセンス製品の特許を得るために何度も渡米しているうちに、カノーバス氏と引き合うようになり、役付きで来ないかと言われました。
条件はフランス語を習得すること、でした。

 
銀座三越の7階で今年の1月に開催された展示会場の様子。
いろいろな層の顧客が次々とやって来る。
昨年開催された青山でのティズコレクションにて、石田屋三代目田中和昭と。
 
▼タイへよく行かれるとか。

 山岳地域には少数民族がたくさんおり、素晴らしい織物と織る技術を持っています。
私がデザインをして彼らに作ってもらい、日本に持って来ています。
タイやラオスのシルクもいいですね。チベットにも買い付けに行きますし、すべて「幸せを呼ぶ」何かの意味が秘められています。

 
▼独立されてまだ二年ですが、いかがですか?

 今日は三越でこうして展示会をしていますが、来月は阪急で行います。
三越の他の店からも招聘があって、手ごたえを感じています。顧客は四十代以上の方々で、品物の値打ちがちゃんと解る成熟した消費者です。人生を正面からとらえ、苦しみや悩みを抱え、しかし、それに静かに耐えてなお、前を向いて生きていらっしゃる方々です。
だから、私のコレクションの品々の意味が分かるのですよ。「ポルト・ボナー」を求めている人たちなんです。石田屋さんにもたいへんお世話になっています。シルクのカバーや
アクセサリーなどが大好評とのことですし、商品の値打ちだけでなく、それらの品物の持つ精神的な意味まで受け入れていただいています。展示会を今年金沢でとお招きいただいていますが、その際、石川の人たちともよき出会いがあるかもしれませんね。

 
 [2003年2月20日発行・季刊誌金澤No.27号]