|
「日本の美と言うと、侘び寂びばかりが尊ばれる風潮がありますが、奈良時代や桃山時代の華やかな美の世界も、本来日本人が持っているものだと思う。私が作っているのは、家のなかを少しだけおしゃれにしたい、日常生活にちょっとセンスアップしたいと思う女性たちに向けた生活小物。でもそんなものづくりのなかに、日本古来の精神的なものを息づかせていきたいと考えているんです」
井上さんの工房で行われているのは、単なるデザインではない。糸の色から配色、柄、製品化までを総合的にプランニングするのである。例えば色ひとつとっても、開房当初は13色だったものが、今はピンクだけでも10色以上に及ぶ。しかもどの色も、時代にあわせて微妙に変遷を繰り返している。時代に迎合してはいないが、時代の空気を感じさせるなにかが、一枚の麻暖簾に、バッグに、確かに感じとれる。
「私のところのスタッフは、生まれも年代もさまざまですが、殆どが女性。この仕事は女性の才能を生かせる仕事じゃないかと思っているんです」
おだやかな口調のなかにも、この仕事に対する真摯な姿勢と自負とが見え隠れしていた。考えてみれば元来、麻の仕事は、女の仕事だったのだ。女が、女のために作り出す、やさしさ、ぬくもり。一枚の布に託されたさまざまな思いに、女なら、魅了されずにはいられない。
|